アスベストを長期間吸引すると肺線維症、悪性中皮腫、肺がんといった病気を発症するリスクが高まる

アスベストとは、厳密には蛇紋石の仲間のクリソタイルや、角閃石の仲間のクロシドライト、アモサイト、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの6種類のケイ酸塩鉱物を原料とする天然鉱物繊維に付けられている商品名を意味する言葉です。さらには、これらを用いて製造された各種素材などの総称としても用いられる場合があります。アスベストは比較的安価な上、耐熱性、耐火性、耐摩擦性、防音性、絶縁性、酸アルカリへの耐性などの特性があり、過去には建材をはじめ多くの産業用資材として使われてきました。
しかし、アスベストはその繊維の太さが0.02~0.35μm、髪の毛のおよそ1/5000と細く、その上繊維には弾力性がなく弱い衝撃でも粉砕されて飛散するため、生活圏での使用量が増加するにしたがい、飛散したアスベストの吸引に起因する健康被害が社会問題として顕在化するようになりました。そのため、近年ではその取扱が法令等で厳しく規制され、使用も極一部に制限されるようになりました。

アスベストが引き起こす健康被害

アスベストを長期間に亘って吸引すると、肺線維症や悪性中皮腫、肺がんを発症するリスクが高まることが疫学的研究によって証明されています。しかし、ケイ酸塩鉱物であるアスベストの化学的本質そのもの自体には、健康被害を引き起こすような毒性はありません。
飛散したアスベスト繊維の多くは微細な針状構造をしており、吸引されて肺に入ったアスベスト繊維は肺胞内に沈着し、化学的に安定であるため分解されることなく長期間肺に滞留して肺を物理的に刺激し続けます。また、通常は体内に入った異物はマクロファージと呼ばれる白血球の一種によって排除されますが、細胞レベル的に見れば十分な長さを有するアスベスト繊維は排除され難いと考えられています。そしてこの物理的な刺激が炎症を惹起して、肺の繊維化(肺線維症)や悪性中皮腫、肺がんなどの健康被害へと繋がっていきます。アスベストの有害性は、原料として使用される上記6種類のケイ酸塩鉱物の種類によっても異なるとされています。アスベストの99%はカナダ産のクリソタイル(蛇紋石系)が占めており、その他としては角閃石系のクロシドライト、アモサイトなどが使われていますが、クロシドライトやアモサイトに由来する方がクリソタイルに由来するアスベストよりも発がん性が強いと言われています。

肺線維症、悪性中皮腫、肺がんについて

■肺線維症
肺の繊維化はアスベスト以外でも、粉塵やある種の薬品によっても発症することが知られていますが、アスベストに起因する肺線維症については石綿肺として区別されています。アスベストに10年以上暴露した場合、15~20年の潜伏期間を経て発症すると言われています。
■悪性中皮腫
悪性中皮腫とは、主に胸膜や腹膜、心膜などの臓器や体腔の表面を覆っている中皮ががん化することで発症する疾患です。その殆どは胸膜に発生する胸膜中皮腫で、80%以上を占めています。自然に発症するケースは稀で、殆どはアスベストへの暴露が原因とされています。潜伏期間は30~40年と極めて長く、低濃度の暴露でも発症する反面、濃度依存性は低く、高濃度の暴露でも発症率は10~20%とされています。また、海外では遺伝性素因が関係するとの報告もあります。アスベストを大量に使用していた時代から40年が経過し、潜伏期間を経過しようとしている近年、悪性中皮腫による国内での死亡率は上昇傾向にあります。
■肺がん
アスベストによる肺がん発症のメカニズムについては、物理的刺激がイニシエーターとなることが示唆されてはいますが、今のところ詳細については明確にはされていません。悪性中皮腫とは異なりアスベストへの暴露濃度に依存性が認められており、また、喫煙との関連性が指摘されています。潜伏期間は15~40年とされています。